海外赴任する際の税務

Posted on 17/08/2012 by Koji Takahashi

 日本企業の海外進出は最近ではすっかり当たり前のこととなりました。景気の悪さもあり新興国に活路を求めて海外進出したり、自治体が海外の都市と組んで中小企業の海外進出を後押ししているケースも最近は見られるようになりました。海外進出に伴い自社の従業員を赴任させるのは必ず付きまとう話であり、大企業なら当たり前のことでも中小企業にとっては、現地の運営を含めて相当な労力が必要になります。税務についても、国境を跨ぐ人の移動には色々な事態が生じ、税務処理をしなければならない事項も多数発生することと思います。今回は赴任した前後で当該従業員の税務関係がどのように変化していくか検討していきたいと思います。

<前提>

  • 従業員は日本において居住者である。
  • 赴任前は国内給与所得しかなく、赴任後は現地で給与が支払われる。
  • 赴任期間は1年以上である。

1.居住者から非居住者へ
 赴任に伴い従業員は日本の居住者から非居住者へと変わり、税務上の取り扱いが変わりますが、非居住者になる時期はいつか?所得税法第2条、所得税法施行令第15条、また、基本通達2-4から、赴任の内示や辞令を受けた日ではなく、出発した日(出国した日)の翌日から日本の非居住者となります。では、もし当該従業員が海外に出張中に突如辞令が出た場合はいつから非居住者になるのでしょうか。この場合は、出張に行った日の翌日ではなく、当該辞令が出た日から非居住者に該当することになります。所得税法施行令第15条第1項において、「その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」とありますから、単に出張に行った時点は、これに当てはまりませんから辞令が出た日から非居住者になります。

2.居住者と非居住者の税務上の取り扱い
  居住者と非居住者の税務上の相違は、まず居住者については国内源泉所得について課税されるが、非居住者についてはされない(厳密にいえば所得の種類により課税されるケースもあるし、非居住者の国内における滞在日数によってもことなります。ここでは、あくまで当該赴任者に限って述べます)ということが挙げられます。よって、当該赴任者は非居住者になった日から、日本国内で所得税が課されないこととなります。仮に不動産所得があった場合はどうなるか?この場合は日本国内源泉所得がありということで、不動産所得については第1次課税権が日本にありますので引き続き課税されることになります。

3.出国前にすべき税務処理
  所得税法第190条では、年中に確定した給与等の金額が2千万円以下のものに対して、その年の最後に給与等に支払いをする際に年末調整するように規定しています。よって、海外赴任する場合は、出国する直前までに支給する本年の給与総額を対象にして、最後に支給する給与等で年末調整をすることになります。この場合、主な所得控除については次のようになります。
 (1)  配偶者控除・扶養控除 
        それぞれ決められた金額を控除できる。
 (2) 社会保険料控除 
        1月1日から出国の時までに支払ったものが対象となり、出国後の支払見積額は控除対象となら
   ない。
 (3) 生命保険控除
        1月1日から出国の時までに支払ったものが対象となり、出国後の支払見積額は控除対象となら
   ない。
 (4) 住宅取得控除
        適用されない。

4.確定申告
  年末調整対象者は出国前に年末調整をすることになりますが、確定申告の対象者はどうなるでしょうか。この場合は納税管理人を利用するしないの2ケース考えられます。納税管理人は、「個人が日本国内に住所及び居所を有せず、若しくは有しないこととなる場合において、納税申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときは、その者は、当該事項を処理させるため、日本国内に住所又は居所を有する者で等が事項の処理につき便宜をゆうするもののうちから納税管理人を定めなければならない。(国税通則法117)」と定義されています。要するに何か国内で税務処理が必要な場合、税務署への届出により代理人を立てて当該事項を処理させる人をいいます。当該納税管理人を定めた場合、確定申告書は翌年の3月15日までに提出することになりますが、そうでない場合は出国までに確定申告書を提出する必要があります。通常は税理士などの専門家が納税管理人となるケースが多いようです。なお、前述の不動産所得があるケースですが、申告の度に帰国する場合は別ですが、納税管理人がいないと申告書の提出ができませんので、このケースも納税管理人を定めておいた方が良いでしょう。

 

By CPA & Tax Accountant, Koji Takahashi,
Tokyo & Yokohama