海外赴任中の退職手当
1.非居住者に対する退職金の源泉徴収
非居住者(国内に住所も、引き続き1年以上居所も有しない個人)に対して、国内において源泉徴収の対象とな
る国内源泉所得の支払いをする者は、その支払の際、所得税等を源泉徴収し、納付する義務があります。
海外赴任により非居住者となった人が海外滞在中に退職して、退職金を支払う場合には、国内勤務期間に対応
する部分の金額については、国内源泉所得に該当するため、20.42%の税率(所得税と復興特別所得税の合計)に
よる源泉徴収が必要となります。源泉徴収税額は、次の算式によって計算することになります。
退職金の額×(居住者としての勤務期間÷退職金の計算の基礎となった期間)×20.42%
2.帰国後に支払う場合
ここで注意しなければならないのは、退職所得の収入金額の収入すべき時期は、その支給の基因となった退職
の日によるものとされている点です。
そのため、海外赴任中に退職した場合には、たとえ帰国してから退職金が支払われたとしても、非居住者(海外
赴任中)に対する退職金として取り扱われることになります。
3.居住者に対する退職金課税との比較
居住者の退職所得に対する所得税等については、
① 勤務年数に応じた退職所得控除を控除する
② 退職所得控除後の退職金の2分の1が課税対象(特定役員退職手当等の場合を除く)となる
③ 給与所得など他の所得と分離して課税される
といった優遇措置が設けられています。このため、長期間にわたり国内で勤務していた社員が、海外赴任中で
非居住者である時に退職した場合には、国内勤務のまま退職した場合、あるいは帰国後に居住者として退職した
場合と比較して、退職金に対する税負担が高額になるのが一般的です。
4.具体的な税額の比較
たとえば、勤続年数30年の居住者が3,000万円の退職金の支給を受けた場合の源泉徴収税額(所得税額と復
興特別所得税額の合計)は、約111万円となります。
これに対して、同じ勤続年数30年で最後の5年間は海外赴任して、非居住者として退職した場合に、同じく
3,000万円の退職金の支給を受けた場合の源泉徴収税額(所得税と復興特別所得税額の合計)は、約511万円と
なり、約400万円も税負担が異なることになります。
5.退職所得に対する選択課税制度
居住者で退職した場合と、海外赴任中で非居住者である時に退職した場合の税負担の調整を図るために、本
人の選択によって、退職金の総額を居住者が受給したものとみなして、居住者と同様の課税とすることが認めら
れており、これを退職所得に対する選択課税制度と呼んでいます。
この場合、源泉徴収された所得税額等の精算のために、本人が所得税の確定申告をすることによって、その差
額の還付を受けることができます。