国際会計基準と税法上の減価償却費

Posted on 09/07/2012 by Koji Takahashi

 国際会計基準(IFRS)の強制適用に当たっては米国の動向等など、不透明感が漂っているものの上場会社については影響の大小にかかわらず何らかの準備をしておく必要があると思います。特に製造会社にあっては、従来から減価償却については税法上のルールに従い規則的に費用処理してきており、監査上も基本的には問題がないという扱いされてきました。しかし、IFRSあるいは同様の基準が導入されると、従来採用してきた減価償却の方法を変更する必要が出てくる可能性があります。会計上はIFRS、税務上は税法基準により減価償却を行うとなると、固定資産台帳を2つ持たなければならず管理上、企業の負担が増すことになります。IFRSと税法基準で処理方法を同じにすることが出来ればいいのですが、果たして監査上、認められるかの問題もあります。色々、越えなければいけないハードルはありますが、社内で以下の手順で検討を行えば処理方法を統一することも考えられます。なお、一般的な会社であれば定額法以外の例えば定率法などはほぼ無理と考られているため、IFRSを採用した結果、定額法により処理することとなるケースで説明を行います。

1.減価償却の方法
 IFRSでは、使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映するものでなければならないとされています。現状の日本基準も言葉は違えど基本的には減価償却の方法はIFRSと同様の同じ考え方に立っています。では、税法基準が容認されている背景とはなんでしょうか。特に上場会社では非上場会社と異なり、会計監査人による監査報告書が必要となりますので、税法基準を簡単に適用することはできないはずです。
 これは、「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会報告第81号)において、多くの企業が法人税法に定められた方法に従っている実務慣行を鑑みて、不合理でなければ問題ないという通達がだされたため容認されているのです。

2.IFRSが適用された場合の減価償却の方法
 企業の実態に応じた償却方法が採用されることになりますが、一般的には定額法を採用する会社がほとんどになると考えられます。売上、製造、開発のパターンなど通常とはかなり異なるのであれば、定額法以外も考えられますが、一般的な会社であれば定額法以外の例えば定率法などはほぼ無理と考られています。

3.会計方針の変更
 IFRSを採用した場合、定額法になるのであれば会計上は新しい基準の適用によるものですので、当該変更は問題ないく認められます。また、そのタイミングで税法の償却方法を定額法に変更しておけば問題ありません。法人税法上は変更しようと思う期の前の期末末までに税務署へ変更届けを提出しておけば変更が認められます。なお、税務上の場合も会計と同様、変更に関して合理的な理由が必要となります。

4.IFRS強制適用前の会計方針の変更
 問題はIFRS強制適用前における減価償却方法の変更が監査上、認められるか否かです。例えば企業が定率法を採用している場合、監査上は現状“不合理がない”ということで認められているはずですので、それを変更するというのは、過去の判断が誤っていたということにもなりかねません。この辺りは担当している監査法人がどこまで認めるかということになりますが、検討するにあたり会社としては下記のデータを準備することで認められる可能性があります。

(1)定額法が正しいという理由
  監査法人も理由はともあれ、実は定額法が正しかったというのは頭の中では理解しているケースが多いはずです。しかし、何もデータがなく変更しますでは監査法人内の審理も通りません。そこで、会社の生産、売上、今後の経営に関するトレンドなどを数値化して、定額法が正しいという根拠を提示する必要があります。過去のデータに基づいて算出したとしても、過去が誤ってたとは監査法人も言いづらいでし ょうし、見直しの結果、今後からはより正しい方法で行うということになるので過去のデータでも構いません。

(2)利益水準
  仮に上記根拠が準備できたとしても、当該変更により損失予定が利益になるといった場合には監査法人側の対応もかなり慎重になってきます。よって、可能であれば損失が利益になるような状況での変更 は控えた方が無難かもしれません。

5.その他の注意事項
 IFRSの適用に伴い、減価償却方法の変更は問題なかったとしても耐用年数についても、IFRSでは合理的な耐用年数を付すことを求めています。この結果、税法基準の耐用年数が不合理なケースが出てくる可能性があります。この点、税法基準の耐用年数は税法だからといっても、それなりの根拠に基づいて決められています。よって、通常の使用であれば実際の耐用年数と大きな差は生じない可能性はあります。この点は、過去の固定資産台帳から除却した固定資産について、どのくらい使用したのちに除却されたのかをデータ化し、税法基準による耐用年数と当該除却年数に大きな乖離がなければ、そのまま税法基準に基づいた耐用年数に問題はありません。しかし、どうしても乖離が大きい場合はどうのようにすればよいか。法人税法上、耐用年数の短縮という制度があります(通達7-3-18 法人の有する減価償却資産が令第57条第1項各号《耐用年数の短縮》に掲げる事由に該当するかどうかを判定する場合において、当該各号の「その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いこと」とは、当該減価償却資産の使用可能期間がその法定耐用年数に比しておおむね10%以上短い年数となったことをいうものとする。)ので、これを検討してみるもの1つの方法かと思います。

 固定資産の減価償却等は、税法上、上記のようなものだけでなく一括償却資産、圧縮記帳など様々な処理方法があり、特に製造業では保有する固定資産の数も多く上記のような処理が出来ても一筋縄ではいかないとも想像されます。検討するに当たり、システムの使いやすさなども絡んできますので、多面的な方向から検討することをお勧めします。